東京の出版社に勤めている久里子(木村佳乃)はカメラマンの充生(村上淳)との結婚を決め、故郷にすむ両親に報告するために、瀬戸内海に浮かぶ『瀬ノ島』という小さな島を一人、2年ぶりに訪れる。

  生まれ育った懐かしい島でしばしの休暇を過ごす久里子。教師を退職した父・周三(大杉漣)は、母・泰子(大谷直子)と廃校になった小学校を改築して民宿『波の穂』を営み、遠くで暮らす娘をいつも心に思い暮らしていた。娘の突然の帰省に、何かあったのでは、と気がかりでいても聞き出せずにいる周三。「お父さん、私、私...」久里子もまた、なぜか伝えるべき言葉を飲み込んでしまう。

  そんな特別な感慨を秘めた久里子の里帰りは、いつしか幻のように蘇る幼い頃の記憶に導かれ、自分の軌跡を顧みる心の旅となってゆくのだった。島に伝わる伝説の鈴に重なる甘く切ない幼い恋の記憶、そこで語られたまだ見ぬ「幻の町」、刹那的に脳裏に浮かぶ亡き祖母との船旅。久里子は幼なじみの健太(照英)とともに初恋の人・隆司の消息を訪ねる小さな旅に出る。しかし、13年間という時の隔たりを経て、久里子は思いもよらぬ結末を知るのだった。